一般的な事業承継スキームは、社長に多額の退職金を支給し、一時的に会社の株式評価額が下がっている間に、後継者(又は後継者が設立した持株会社等)に株式を譲渡するというものです。
この方法では、退職金の支給や後継者の株式の買取資金を捻出するため、会社の資金繰りが苦しくなってしまいますので、ほとんどの場合、借入金や私募債でキャッシュを戻してこなくてはなりません。
しかし、この社長から会社への貸付金や私募債をそのままにしておくと、結局は相続財産になってしまうため、多額の相続税が課されてしまうことが多くあります。
これを避けるためのスキームが、今回ご紹介する名付けて「成田離婚スキーム」です。
状況
クライアント:創業80年の冷凍倉庫業を営む N社長
ご子息に会社を継がせたいが、安定した業績のため多額の相続税がかかり、事業継承が困難になることが予測され木下にご相談に来られた。
木下
(退職金を活用した事業継承スキームのひととおりの説明を終える)
N社長
でも、先生、この方法やと会社か息子に現金がないと厳しくありませんか?
私に退職金を払って、会社の資金繰りが悪くなったら何をやってるのかわかりませんよ!
木下
そうなんです、ですから社長のお金を会社に貸し付けるなどしてお金を会社に還流させてもらうことになると思います。
N社長
なるほど、それで事業継承は終了するわけですね。
木下
いえまだ事業承継は終わらないんです。
よく銀行が事業承継で持ってくる提案はここで終わってしまうと思うのですが、その社長貸付が残ったままだと結局は相続財産になってしまうので、案外結構な相続税がかかってしまうんですよ。
N社長
そらそうですね〜。
会社の株式を持っているよりは相続税が安くなるとはいえ、会社への貸付金に相続税がかかってしまってはあまり意味がないような気がしますね。
だって、株式を売ったお金は会社に還流させて資金繰りに回しちゃうでしょうし、相続税を払う時に会社からお
金を出すのは、たぶん厳しいでしょうね。
木下
そうなんです!!
なのでただ単に会社にお金を還流させるんではなく、私募債と、意外なんですが信託制度を活用すれば相続財産を圧縮させることが可能になるんです。場合によっては相続財産から外すこともできちゃいます。
N社長
私募債はわかるけど、信託?信託が今回の件になんの関係があるんですか?
木下
事業継承時のN社長から会社への貸付金を、会社が発行した少人数私募債(社債)にしていただきます。
そして、その私募債を信託するんです。この場合の信託は「民事信託」になるので、誰でも受託者になれます。
また、N社長が信託を自分に委託して、N社長が受託者と受益者になることも可能なんです。
N社長
う〜ん。信託って言われると、何だか専門用語が多くてよくわからなんですが。。。
でもわざわざ信託を利用するのに何か意味があるんですか?
木下
ええ、ここからがこのスキームの要点です。
私募債を信託することで、元本弁済を受ける権利である「元本受益権」と、私募債の利息を受け取る権利である「収益受益権」に分割することができるんです。
で、このうち「元本受益権」のみを息子さんに贈与もしくは譲渡し、N社長には「収益受益権」だけをお持ちい
ただいて、毎年利息を受け取っていただくんです。
つまり、私募債の諸々の権利を「元本受益権」と「収益受益権」に無理矢理分けてしまうわけです。
元本の受益者と、収益の受益者が異なる信託受益権の財産評価は下記のようになります。
元本受益権 | 収益受益者 |
---|---|
課税時期における信託財産の価額から収益受益権の価額を控除した価額 | 課税時期の現況のおいて推算した受益者が将来受け取るべき利益の価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利原価率を乗じて計算した金額の合計額 |
となるんです。
つまり、起債したての私募債の「元本受益権」は低く、「収益受益権」は高く評価されることになります。
で、元本受益権の財産評価額が低いうちに、息子さんなんかに「元本受益権」を贈与することによって、贈与税の課税を軽減させてやればいいんです。やり方によっては評価額を1/10位にすることも可能ですよ。
私募債の権利を早いうちに分割しちゃわないといけないので、「成田離婚スキーム」と呼んでいます笑
(イメージ図)
私募債の種類:利付債
私募債の金額:1億円
利率 :年5%
償還期間 :20年
基準年利率 :1%
N社長
ほぉ〜!これはスゴイですな!
早速検討しましょう!
注意点
私募債の発行年度から時を経るに従い収益受益権の評価額は低減していきますが、償還期間を満了する前に相続が発生した場合には、相続発生時の収益受益権の評価額について相続税が課税されるため、当たり前の話ですが償還期間は適切な長さにしておく必要があります。