ドクターが友人2人と株式会社を設立し飲食店を開業したのですが、設立初年度は報酬をほとんど取らない状況でも大きく赤字・・・
個人的な資金をどんどん法人につぎ込んでいた。さらに今後の見通しも厳しいという状況。
こんな時、高額所得者のドクターだからできるテクニックがあるんです・・・というお話。
状況
クライアント:高額所得者のドクターSさんが友人2人と創業した飲食店を運営する株式会社
会社設立時から税務顧問を承る。経営は厳しく状況が好転する見通しがないとのお話。
経営を成り立たせるための方策も検討したが・・・いったんは店をたたむことも検討する状況。
Sドクター
やっぱりこのままお店たたんじゃうしかないんでしょうか・・・
飲食店を経営するのが長年の夢で、このために頑張ってきたのに・・・
木下
赤字を続けていても、繰越欠損金として利用できる可能性がありますが、それは経営が好転する見込みがある場合です。
うーん・・・いや「個人成り」する手もありますね。
Sドクター
個人成り?法人を個人に変更する・・・ってことですか?
木下
そうです。今回のお店は居抜物件だったじゃないですか。
法人としての資産がほとんどないので、特に法人から個人事業に移行するための手間も少ないと思うんです。
Sドクター
で、でもどうして法人からわざわざ個人にするんですか?
木下
あっ、すみません。
肝心の内容を説明していませんでしたね。
S先生の給与所得が高額じゃないですか。
個人として経営することで給与所得とお店の事業所得を通算して確定申告することになるんです。
これを「損益通算」といいますが、つまり、お店の赤字分を給与所得から控除して申告できる。
そうすることで、たくさん支払われている所得税の一部が取り戻せるんです。
「個人成り」により個人事業者として事業をリスタート
個人事業が赤字だとしたら・・・ |
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ドクターが給与所得者であれ事業所得者であれ、新たに個人事業主としてお店をスタートすれば、既存の所得に新たな事業所得が加わることになります。 給与所得も事業所得も合算して税金を計算する「総合課税」の対象となる所得です。
つまり、お店にかかる事業所得が赤字であれば・・・ 確定申告を行い、「損益通算」をすることによって、赤字の分、給与所得など他の所得で源泉されていた所得税が還ってきたり、既存の事業所得の節税になったりします! |
シュミレーション
新事業が黒字のケース | |||||||
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理事長・雇われ院長(給与所得者)の場合) | |||||||
給与収入 | 1200万円 | 給与所得 | 970万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 393万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 264万円 | ||||||
開業医(事業所得者)の場合) | |||||||
事業所得 | 1200万円 | 所得税+住民税 | 362万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 491万円 | ![]() |
新たな事業で黒字が出ると、追加所得に対して高率な税負担が強いられる。
新事業が赤字のケース | |||||||
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理事長・雇われ院長(給与所得者)の場合) | |||||||
給与収入 | 1200万円 | 給与所得 | 970万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 224万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 264万円 | ||||||
開業医(事業所得者)の場合) | |||||||
事業所得 | 1200万円 | 所得税+住民税 | 362万円 | ![]() |
所得税+住民税 | 320万円 | ![]() |
新たな事業で赤字が出ると所得のマイナス分に対して高率な減税効果が生まれる。
ポイント
新たに店を持つといった場合には、軌道に乗るまでの間は赤字が見込まれるため、いきなり法人を設立するのではなく、まずは個人事業として開業することで、赤字が出ても減税効果が生まれるためダメージを最小限に抑えられます。
黒字が大きくなると法人成りにするというのはよく使われる手法ですが、逆にすでに法人として動いている場合でも個人成りを検討することで思わぬ減税効果を得られることがあります。
Sドクター
本当に?それは凄い!
でもこれ・・・違法性はないんですか?
木下
もちろん、意図的に所得税を下げるためにこのようなことを行うのは良くないですが、今回は先生も夢のお店の存続をかけてのお話なので、問題無いと思います。
Sドクター
では、さっそく個人成り、取り掛かってください!
その後
個人事業成りをした年もやはり事業は赤字という状況でしたが、その年の確定申告では、約2,000万円の給与所得と約200万円の事業所得のマイナスが損益通算制度により合算されるため、所得が1800万円になり、給与の支給の際に源泉されていた約100万円の所得税が還付されました。
これにはドクターも大喜び。
お店の閉鎖も検討していらっしゃいましたが、やはり自分の店を持ちたいという思いも強く、あわてずに気長に黒字化を目指していこうということになりました。
今回のポイント