病院を中心とした医療法人グループにて、有料法人ホーム建設の計画が浮上。
医療法人が建設すると、5,000万円以上の消費税を損してしまうところでしたが・・・
新法人設立などのスキームで5,500万円の還付に成功したお話です。
状況
クライアント:医療法人グループ 総務部長Yさん
医療法人グループとして医療施設を6箇所経営しているが、周辺施設の人口動態変化による市場獲得および既存施設との相乗効果をねらい有料老人ホームの建設を計画。
建設計画がほぼGOになった時に税務的なリスクがないかご相談を受けました。
木下
・・・部長、この計画のまま建設すると、消費税を5,000万円以上多く払ってしまうことになりますよ。
Y部長
ええ?なんでそんなことに?
木下
医療法人で建設してしまうと建設代金11億円の消費税5500万円のうち、控除対象となるのはわずか275万円なんですよ。
これはかなり厳しいですよね。
Y部長
消費税を払うのは当たり前と思ってましたけど・・・なんか損している気分ですわ。
木下
医療法人は課税売上割合が小さいため、消費税を気にすることが少ないですもんね。
ただ、今回の老人ホーム建設では建設費が11億円と高額なので、消費税だけでも相当大きな額になります。
簡単に言うと、11億円に対する消費税5500万円を業者に支払うわけですが、この5500万円のうち消費税の計算上税額控除に使えるのは、これに御社の課税売上割合である5%をかけた275万円のみになり、5000万円以上のいわゆる「損税」が生じるんです。
1.納付の場合
Y部長
なにか良い対策はないんでしょうか・・・これ理事会に知られたら私の首も危ないですわ・・・
木下
株式会社を新たに設立し、医療法人ではなく株式会社で建築したらどうでしょうか。
ただし、その株式会社で課税の売上が計上されていないと意味がないですが。
ですから・・・
たとえば、医療法人に対するリネン関係のサービスを行ったり車両のリースをしたりする事業会社とすることで課税売上を確保するのはどうでしょう?
たぶん新会社の課税売上だけでは、1,000万円に満たないでしょう。
建物引渡しを受ける事業年度に課税事業者であるように「消費税課税事業者選択届出書」を事前に提出しておくんです。
2.還付の場合
※本来還付になるような場合でも、その課税期間が免税事業者である場合には還付が受けられませんので、「課税事業者選択届」を提出し、課税事業者になっておくことが重要!
Y部長
たしかに医療法人のリネンや設備のメンテナンスに関しては現場からクレームがようさん来てますし、「管理体制を統合して一新しろ!」と理事会からも指示されている事項ですから一石二鳥です。
よかったですわ・・・先生に相談して。早速新会社の登記をしましょ!
木下
ちょっと待って下さい・・・有料老人ホームの事業が開始すると非課税の売上が計上されちゃいます。
ですから、建設引き渡しの時期にあわせて事業年度を区切り、課税売上割合が100%の事業年度に建物の引き渡しを完了するようにしなければなりません。
Y部長
なるほど・・・事業年度の切り方も建設にうまいこと合わせないといけない、ということですね。
木下
そうなんです。そしてその後も注意が必要です。
老人ホームを経営する新会社はその後も課税事業者ですよね。
このままだと「課税売上割合が著しく変動したときの調整」というのを受けてしまいます。
これは課税売上の割合が大きく変動した時にその調整をする・・・
という制度で、せっかく今回有利な納税条件をつくったのにそれが薄まってしまうんです。
Y部長
ええー
それやったら手間もかかるしこんな面倒なことやってられませんやん・・・
木下
ご安心ください。調整を受ける事業年度の前に「消費税簡易課税制度選択届出書」という書類を提出して、消費税の計算方法変更しておくんです。(※現在、一定の規制が掛けられました。)
そうすればこの調整を回避することができます。
Y部長
なるほど!何から何まで教えていただいてありがとうございます!
早速理事会に諮り、計画を進めます!詳細はまたご相談させてください。
還付される消費税例
例1 | |||
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建物建築費等 | 5億円 | 預かった消費税 | 1,000万円 × 5% = 50万円 |
介護保険外収入 | 1,000万円 | 預かった消費税 | 5億円 × 1,000万円 ÷ (1,000万円 + 9,000万円) × 5% = 250万円 |
介護保険収入 | 9,000万円 | 還付される消費税 | 250万円 − 50万円 = 200万円 |
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|||
例2 | |||
建物建築費等 | 5億円 | 預かった消費税 | 1,000万円 × 5% = 50万円 |
介護保険外収入 | 1,000万円 | 預かった消費税 | 5億円 × 1,000万円 ÷ 1,000万円 × 5% = 2500万円 |
介護保険収入 | なし | 還付される消費 | 2500万円 − 50万円 = 2450万円 |
より多くの還付を受けるための対策
その後
建物の引き渡しを受けた事業年度で、課税事業者を選択していたことで仮払消費税の100%、約5,500万円の消費税の還付が確定しました。
またその後の事業年度で簡易課税制度を選択することで、調整による還付金の返還を回避することもできました。
その後、このようなスキームが難しくなる改正が行われこのままの手法による節税は難しくなっていますので注意が必要です。
今回のポイント
設備投資などにより多額の仮払消費税が生じる事業年度において課税事業者であること
(必要に応じて「課税事業者選択届出書」を事前に提出)